◆ 「カフェテラスで相談を」 ファンタジー組メインのお話です。 ファンタジー編は「元の世界に戻る」ことがメインストーリーだったこともあって、その後はどうなったのか? 文化祭はちゃんと開催できたのか? という辺りは投げっぱなしでした。 今回の話はそれらを補完して「あの時のことは不思議に思っているけれど、部活に勉強に毎日忙しく過ごしてるよ」ということを伝えるつもりで書きました。もうひとつ、ああいう世界だったこともあって実現しなかった、本編キャラとの交流も書きました。 もう少し深く長く議論することも出来たのですが、わりとあっさり目に納得するように話をまとめたつもりです。ストーリー中では璃瀬をメインにした関係で、彼女がひとりで悩んでいるように思えるかも知れなませんが、ヌワラやルフナも彼らなりにあの体験を納得しようと努力しています。 全体のイメージとしては、オカルト板の「異世界に行った話」や「オレが体験した不思議な出来事を語る」のようなスレッドを書き手(璃瀬)と読み手(彰人)でストーリー化したような感じになっていると思います。 ◆ 「幸便に託して~オーデンの休日~」 久紀が手紙という形式で語るお話です。 久紀の留学先は現実世界ではスイスに当たり、Ringlet世界のアベンナはローザンヌをイメージして書かれています。この話はスイス西部、フランス寄りの文化圏についての、実体験に基づくヨーロッパ滞在記です。 屋根裏部屋の家賃が安いのは、夏に暑く冬に寒いからです。夏場でもエアコン導入に至るまでは暑くならないことが多い欧州中部においても、近年の気象変化によって夏日が増え、屋根裏住みの低所得層のお年寄りが熱中症で亡くなるケースが増えています。実際に泊まってみると、建物の構造にもよりますが、斜め天井というのはユニークで面白い気がします。ただし、圧迫感はかなりあるので、閉所恐怖症の人や背の高い人は苦労するかもしれません。 物価は本当に高く、牛丼屋が揃って300円代のサーヴィスを提供している日本に戻ってくると不思議な感覚を覚えます。昼食を例にすると、本当に最低のところを探しても10スイス・フラン(1スイス・フランは110円程度)、15-20スイス・フランで平均的という感じですから、みんなパンやチーズを買ってサンドイッチを自作し、飲み物やサラダだけを買うのが一般的です。クラッカーにジャム、シリアル、お菓子だけで済ませるなんて人も多いです。 スイスは生協(COOP)がやたら強い国で、どこの街でも大きなお店と言えばまず生協、ついで民間スーパーマーケットであるミグロ(MIGROS)が目につきます。大手チェーンという形態が少なく、個人経営の専門店(パン屋、肉屋、八百屋、魚屋、チーズ屋等々)が多いのも特徴で、長く住んでいれば行きつけのお店が自然と出来上がるのでしょう。 本編で省略した話としては、鉄道チケットの有効範囲、ほとんどが押しボタン式の信号、真面目で旅行者にはおおむね親切な国民性などがあります。 スイスを評するなら、物価高に眼をつぶることさえ出来れば素晴らしく過ごしやすい国と言えます。また行きたい。 ◆ 「ルヴェリエ・カード」 愛ちゃんとガーデンマスターのふたりがメインのお話です。 実際にはちゃんとした名前があると思いますが、「川魚のオレンジソース和え」は欧州滞在中にそこそこ高級なレストランで食べた料理です。たしか、前菜(アントレ)、メイン、デザートのコースで50ユーロ前後だったと記憶しています。良い意味でイメージと味のギャップに驚いたので、今回紹介してみることにしました。 後半登場する「ルヴェリエ・カード」は現実世界では「ルノルマン・カード」として知られるもので、占いの世界ではそれなりにメジャーなようです。占い方もルノルマン・カードを参考にしましたが、愛ちゃんも言っているとおり、36枚全てのカードを使う方法や脇に描かれているトランプや星座を使用するものなど、方法は実に多岐にわたるようです。 Ringletは現実世界で言えば初代ニンテンドーDSが発売される直前、2004年の話なので、スマートフォンは普及どころか初代iPhoneもありません。 インターネットの光回線はありましたが、まだまだADSLも多く、携帯電話の最先端は写メールと着メロの時代でした。 円佳さんはそこからさらに10年前、1994年に高校生だったわけです。Wikipediaの1994年表を見てみると、サンマリノGPでローランド・ラッツェンバーガーとアイルトン・セナが事故死(4月/5月)、シューメーカー・レヴィ第9彗星が木星に衝突(7月)、ソニーが初代プレイステーションを発売(12月)とあります。蛇足ながら、現代のパーソナルコンピュータの礎となったといってもいいWindows95は名前の通り1995年発売ですから、94年当時のOSはそれ以前の3.1で、国内に限ればNECのPC98一強時代でした。 女子高生文化で言えばポケットベルからPHS、携帯への移行期なのですが、Ringlet世界は歴史も現実と少し違うという設定なので、PHSブーム以前のポケットベルブームはありませんでした。その他、たまごっち発売が1996年末(ブームは97年)ですから、それより前の話です。ファッションはとかく地域差が大きいですが、円佳さんは首都圏在住だったという設定で書きました。 ◆ 「風邪ひき」 主人公とその母親、奈緒がメインのお話です。 さらに、第五話でメインの割に若干出番の少ないエルセにもフォーカスしました。 風邪で寝込んでいる時にまとめたメモをストーリーにしました。読み返してみると、自分はもっと弱気だったのですが、主人公の性格を考えてやや楽観的に書いてあります。 奈緒の性格は自分の母親にかなり似せていて、自分も学校に行け! と言われたことはありませんでした。(学校はむしろ好きでしたが) 自分は来てくれた人に万一でも感染すと悪いと思う派なので、風邪の時にお見舞いには来てほしくないタイプです。プリントは家族に渡してくれればいいわけですし、内容は電話やメールでも十分伝わるからですが、いざ来てくれたら、それはそれで嬉しいと思います。後の第五話でも言っているように、リスクを承知で来てくれた愛ちゃんとエルセ(エルセは絶対に大丈夫ですが)と、意を汲んで来なかったかれんは同じくらいありがたいと思います。 ◆ 「いつもの姉と、しんぱいないもうと」 エルセとFairytale編纂のお話です。 第四話のリバーシブルですが、後半はかれん編っぽい気もします。 Ringlet the Fairytale編纂秘話は、本当は完結してから書くつもりだったのですが、なかなか進まないので先に出してしまうことにしました。 本編中でエルセがねだったお話は、サクソ・グラマティクスなる人物が書いたとされる「Gesta Danorum」に収録されている物語の一節です。日本語訳では「デンマーク人の事績」(東海大学出版会)というタイトルで部分訳されていて、該当部分も翻訳されています。(2016年現在、残念ながら完訳はないようです) この書物はデンマーク人の歴史について(伝説を交えながら)書かれたものですが、非常に読み応えがあり、中世の戦士の心得や戦を知りたければこの本で事足りるのではないかと思われるほどです。学術専門書に分類される本なので、図書館を頼ってみてはいかがでしょうか。 作中のキーアイテムとなっているミントタブレットですが、自分がミンティア派なので、おそらくふたりもミンティアのケースを鳴らしていたはずです。 ◆ 「With love, without words」 最後はいつもどおり主人公とかれんのお話です。 時間にして三十分くらいの出来事で、部屋でお茶を飲みながら話しているだけというものです。とても短い時間の話なので、他の話と書き方を変えました。 ストーリーの都合で書かれないだけで、主人公たちの交友範囲は本当はもっと広くて、いつも顔を合わせるクラスメイトだけでも三十人近くいるはずです。部活をやっていれば部活の人も、毎朝同じ電車に乗っているだけで名前も知らない人も、この話のように好意と勇気を持って接してくる人も、ストーリーの外では色々な関係があるのだと思います。そんな世界の外にスポットを当てたかった、というのが理由のひとつ。 もうひとつはいつもの、武術の達人同士が言外で語り合うような、ふたりだけの特別な関係を書きたかったです。もっとも、優劣は戦う前から決しているので、バトル展開としては面白く無いのですが、今回は善戦したのではないかと思います。 いつになるか解りませんが、このふたりの決着はイメージにあるので(その時にはまた変わってしまうかもしれませんが)そこまで書いてRingletはめでたく完結、となればいいですね。 |