02.ストーリー量と分岐

私は長いストーリーが必ずしもいいとは思いませんが、
時流は長編に傾いているようです。

「長く書く」ことは単純に量が増えるだけでなく、
色々と弊害もでてくるんですね。
これからのお話は一人でシナリオを書く場合の話ですが、
複数人で分担する場合は、
整合性チェックにも時間を掛けなければ行けないでしょう。
一人でも矛盾って出てくるし。

オーソドックスな恋愛ゲームを考えてみます。
目的はヒロインと仲良くなること。
マルチエンディングではなく、
キャラ毎に1つのエンドだとします。
そして、クリアできるヒロイン数は5人だとします。

シナリオ量は大雑把に以下の式で計算できます。

共通部分+(ヒロインルート部分*ヒロインの数)+α

ヒロインによって登場時期が遅いせいで短かったり、
メインはやっぱりイベント数が多かったりしますが、
だいたい均等だとします。

全体を100とします。
+αはゲームによってまちまちですので、
ここでは考えません。
キャラ紹介や導入部、共通イベントなどで、
20取ったとします。
すると、以下のようになります。

20+(16*5)=100

一周で読まれるシナリオ量は、
20+16で36になりますね。
読まれない部分が64あるとも言えますが、
これは多いのか少ないのか悩むところです。

ところで、上の式には欠けているものがあります。
それは「分岐」です。
一応、数値やフラグが存在するゲームだとすると、
分岐した先の話をそれぞれ書かなければなりません。

最も単純に、全部2択だとします。
そして、両方の選択肢とも同じ長さだとします。
一周36のうち30%、つまり10.8は分岐先の文章だとすると、
実際に読まれるのは半分の5.4になります。

つまり、実際にユーザーさんが読む量は30.6になります。

現実のゲームでこの値を正確に算出することは困難です。
3択や4択などが入ると値は小さくなりますし、
一般的に言う「ハズレ」の分岐先は短いことが殆どですね。

まあ、仮に30.6だとします。
これは結構低い値なのではないかと、私は思うんですね。
1000ページ分のストーリーを書いても、
306ページしか読まれないわけですから。

もちろん、何周もプレイしてもらえればいいですし、
制作者は常にそう思っているのですが、
ユーザーさんのプレイスタイルによるので、
その部分は何とも言えません。

そして、長編化の流れがあります。
なんとか1周のプレイで読む量を多くしたいとすると、

1.もっとたくさんかく。
2.ヒロインの数を減らす。
3.分岐を減らす(なくす)。

だいたい、こんな方法があるでしょうか。

1.もっとたくさんかく。

これはブルートフォース的な解決法ですね。
1000ページ分で306ページなのですから、
2000ページ分書けば612ページになります。
ただ、1000ページの際に694ページが死文になるところが、
2000ページでは1388ページが死文になってしまいますから、
あんまり効率は良くないと思います。
(スクリプトやデバッグの仕事も増えますし)

2.ヒロインの数を減らす。

例えば、一人減らして4人にしてみます。

20+(20*4)=100

1周は40で、30%分の分岐を差し引くと34になります。
これはバランス(というかフォーカス)の問題ですね。
私は大人数を登場させるのが苦手なので、
一人を長く書く方が好きです。

3.分岐を減らす(なくす)。

もともと「ハズレ」の分岐先が軽い扱いを受けやすいなら、
分岐を減らす方向に向かうのは自然です。

今回、ここがもっとも書きたかったところなのですが、
「分岐ありゲーム」って、ものすごい矛盾したものなんですね。
制作側には理想とする一本の話が既に出来ているわけです。
すべてのユーザーさんがこの道を辿って欲しい、という。

そういう意味で、
「それなら分岐は邪魔以外の何物でもないのに、なぜあるのか?」
と、問われれば、
「それは『ゲーム』という部分に引っかかってくるから」
と、答えられると思います。

ITMediaさんの記事にありますが、
「ユーザーが直接手を下す部分がある=ゲーム」
だった時代の名残だと思うんですね。

「自分でチャートやメモを取る部分の作業がゲーム」
だと言えなくもないです。

間違った分岐先が一目でマチガイだと解るのも、
「こっちは我々(制作者)が望まないルートなんだよ」
と、正当ルートへの回帰(ロード)を促すためだとも思えます。

でも、それはなにか変じゃないか?
そう思い始めたのが最近の分岐無しノベルなのでしょう。
わざわざロードを促す選択肢を作るなら、
最初から無い方がいいという単純明快な理由です。

分岐は「『作業というゲーム性』のために必要なモノ」から、
「『(作者の)理想のストーリーというゲーム性』に邪魔なモノ」
(ストーリーの腰を折るわけですから)
に、変化したとも言えます。

数字の話にもどると、分岐がなければ一周は36になります。
ヒロイン数が4人なら40です。

それじゃあ、分岐は役立たずの邪魔者か?
というと、そうとも言えないところもあります。

分岐は大きくわけて2種類あると思うんですよね。
回帰する分岐としない分岐です。

     / 分岐A \       / 分岐C \ 
物語→          →物語→          →物語
     \ 分岐B /       \ 分岐D /

 

                  / 分岐C →物語
       分岐A →物語→
     /            \ 分岐D →物語
物語→
     \                      / 分岐E →物語
       分岐B →物語→
                                    \ 分岐F →物語

ほとんどのADVは二つを織り交ぜていると思うのですが、
それでも後者が主流になっているように感じます。

「ストーリーの整合性」という新たな問題が発生するものの、
死文を無くすという意味は大きくて、
「回帰しない分岐」は今後も主流だと思います。