小雪姫 採集地:イギリス(スコットランド)
「怖くて不思議なスコットランド妖精物語 "邪悪な王妃と美しい心の王女"」より
「ケルト妖精物語T "金の樹と銀の樹"」より
 メジャーな話シリーズ。

 Ringlet版「白雪姫」に相当するストーリーです。美しい子に嫉妬する王妃という構図の前半はまさしく白雪姫ですが、後半の解決編はだいぶ変わったものになっています。参考にした原文(上の方)では王女(白雪姫に当たる人)がゴールドツリー(Goldtree)、継母がシルバーツリー(Silvertree)という名前になっていますが、大元になったストーリー(下の方)では王妃=Silvertreeは実の母となっています。グリム版の白雪姫も初版では実母なので、そちらのパターンの方が古いのでしょう。おそらく実の母が子供を殺すストーリーは倫理的によくないということで継母に変更されたのだと思いますが、こちらがしっくり来る気もします。仮に実の母が嫉妬深く自分より美しい存在を許さないような人だとしたら、娘にわざわざ自分を越えるような名前(Goldtree)を付けるとは思えません。

 その他に白雪姫と異なる部分として、王妃に返事するのは白雪姫では鏡ですが、この話では泉に住むマスになっています。欧州ではFairytaleに登場する魚と言えばマス(サケ科)かカマス(カマス科)、ニシン(ニシン科)のどれかと言えるほどポピュラーな存在で、今回は(おそらく)淡水の泉が舞台なのでマスなのでしょう。

 原作では王子は王妃の毒によって仮死状態になった妻を諦めきれない一方で、独り身でいることに耐えられなかったので後妻を娶った、とあります。この後妻は知恵に優れていて、妻を仮死状態から解放し、再び暗殺にやってきた王妃を返り討ちにするのですが、Ringlet版ではこの役目を王子の姉に変更しています。なぜかというと、あまりにも王子が身勝手というか、下手をすると後妻がヒロインになりかねないストーリーが展開されるからです。

 以下、全て原文ママ。

 王女が仮死状態から復活したシーンでは

“事情をすべて知って、もうひとりの王女は手を叩いて、「ああ、王子はどんなに喜ばれることでしょう。再婚したものの、王子はあなたを一番愛していることがわかったわ」と叫んだ。”

 王子が帰ってきたシーンでは

“王子はゴールドツリーを見て喜びのあまり、彼女の首に腕をかけて何度も何度もキスをくり返した。その間気の毒に二番目の妻はすっかり忘れられて、自分がひきあわせた二人を立って見つめていた。”

 その後、身の振り方をどうするかというシーンでは

“「こうなることは当然のことだったのです。ゴールド・ツリーはあなたが最初に愛した人です。王女は生き返ったのですから、わたしは自分の国に帰りましょう」
「いや、お前には帰ってもらいたくない」と王子は言った。「おまえがわたしにこの喜びを運んでくれたのではないか。われわれとともにこの国に留まって、三人でともに幸せに暮らそうではないか。ゴールド・ツリーとおまえはとてもよい友達になることができるだろう」”


 当時の人たちがこの展開を聞いてどう思ったのか気になります。少なからず、「後妻こそ真のヒロインでは?」と考えたんじゃないかと思いますね。

 この白雪姫タイプとして変わった物では、フランス民話集に「魔法の靴下」という話が収録されています。嫉妬した王妃が王女を亡き者にしようという冒頭部分こそ白雪姫ですが、森に追放された姫を助けるのは三人の王子で、姫を永遠の眠りにつかせるのは棘ではなく魔法がかかった靴下です。その後、王子たちは戦争にいってしまうのですが、その住処に偶然やって来た狩人が死んでいる(ように見えた)姫を抱えて家に戻ります。狩人の妹が服を着替えさせようとして靴下を脱がせると姫は眠りから覚め、連れ帰ってきた狩人と結婚するというものです。

 タイトルは菊池寛氏のSnow White訳からいただきました。なお、Wikipediaでは「さゆきひめ」とありますが、「こゆきひめ」の間違いです。また、作中の姉役は璃瀬に、メイド役は久紀にやってもらいました。姉役はかれんも考えましたが、かれんはそもそも妹をこんな不幸な状態にはしないでしょう。一回目で返り討ちですね。