グリゼルダ 採集地:イタリア
「イタリア民話集・上巻 "花薄荷の鉢"」より
 リア充大爆発しろシリーズ。

 花薄荷とはオレガノのことですが、英語版のタイトルは「The pot of Marjoram」(和名はマヨラナ)となっています。本編とはあまり関係ないところなのでRinglet版では「オレガノ」としています。Marjoramはハーブの一種であり、花言葉は「恥じらい」とあるので、この辺りも微妙な感情を表しているのかもしれません。二人のやりとりは地方毎に様々なバリエーションが存在し、元々は歌詞っぽい表現なのですが、Ringlet版では普通の台詞にしてあります。また、「ハンガリー民話集」では「アラニュ・ジャーダ」という変型で伝わっていて、こちらはもう少し殺伐としています。

 ストーリー中で「騾馬(らば)」が愚鈍の象徴だったという記述がありますが、実際には驢馬(ろば)がその役目を負わされていました。驢馬と馬の交雑種である騾馬も驢馬とかなり似ている部分が多いので、同じようなポジションだったのかもしれません。

 ストーリーは積み上げ話に恋愛要素を加えたものです。原版では花婿は最後に花嫁の人形の心臓にナイフを突き立てることになっています。花嫁はあらかじめ心臓にクリームの袋を詰め込んでおき、あとはRinglet版と同じく、死んだと思った花婿が反省(?)したところで現れるというエンディングです。愛情表現としては過激ですが、恋人同士がいちゃついてるようにしか見えない気がしなくもありません。

 原型というか、類似のストーリーとしてペンタメローネの第二夜第三話「ヴィオーラ」、第三夜第四話「サピア・リッカルダ」があります。「ヴィオーラ」の後半部分は男女の悪戯合戦なのですが、繰り返しはなく一度きりです。「サピア・リッカルダ」のラストシーンは、砂糖で作った人形を身代わりにベッドへ入れておくというものです。これについて少し補足しておくと、原版ではナイフを突き立てた拍子に飛び出した血(だと思っていたクリーム)を、「サピア・リッカルダ」ではナイフを引き抜いた後に刀身についた血(だとおもっていた砂糖)を、いずれも主人公が舐めたところ、「とても甘かったので改心した(我に返った)」とあります。また、ストーリーはかなり違いますが、大筋では似た話としてスウェーデン民話に「賢いクララ」という話があります。こちらでは人形でなく、豚をベッドにくくりつけたとあり、夫は「妻(=豚)のあまりの悲鳴に心を痛めて」正気に戻ったと結ばれています。

 以上はストーリーの全体的な説明ですが、解りにくい二人のやりとりについて、一つ興味深い解釈を載せておきます。元々のヒロインはStarry Dianaという名前で、Dianaは月の女神を表す言葉ですから、これは星と月をモチーフにしたストーリーだというものです。
 Stella Dianaの最初のやりとりは下記の通りです。

A nobleman called out:

Stella Diana, Stella Diana,
How many leaves show on your maggiorana?
The heroine replied:
Noble, handsome knight,
How many stars twinkle in the night?
Nobleman:
Stars cannot be counted, so many are there.
Heroine:
See my marjoram you must not dare.

 主人公が(ヒロインではなく)オレガノのことについて語りかけているのに対して、ヒロインは空に星はいくつありますか? と聞き返します。騎士の"Stars cannot be counted, so many are there.(夜空の星は多すぎて数え切れないでしょう)"という返事に対して、ヒロインは"See my marjoram you must not dare."という不可解な返事をします。日本語の本では単純に「私のオレガノ(marjoram)を見ないで下さい」と訳されていますが、これでは意味が通らないでしょう。もっとも普通に考えると「空の星と同じように、葉も数えきれないほどあるでしょう」と言いたかったと考えられます。彼女なりの上手い切り返し方、ということですね。

 詳しい解説を加えると"See my marjoram you must not dare."は"You must not dare see my marjoram."の倒置法であり、強調を示すことを考えると、彼女はかなり強い口調で言ったと想像できます。must notは禁止を示す強い否定文でdare〜は"勇気を持って〜をする"という助動詞で、疑問、または否定文でしか使われません。この場合はdare see〜なので「勇気をもって(オレガノの鉢を)見る」ですが、直前にmust notがあるので、直訳は「勇気を持って(オレガノの鉢を)見るのを止めなさい」となります。これは上記の「空の星と同じ理屈です」という答えからはかなり外れているように見えますし、もし、そう言いたいならもっと露骨な言葉でもいいでしょう。

 さて、ここでオレガノの葉=空の星、自分=月と置き換えてみると、最後の「オレガノを見ないで下さい」は「星(オレガノ)にばかり興味を持たないで(近くにもっと明るくて綺麗な星=月があるでしょう?)」という意味になる、というわけです。現代語に置き換えてみると「アンタは本当に植木なんかに興味があるの? (もう、こんなに可愛い女の子がすぐ傍にいるんだから、私を見なさいよね///)」くらいの意味でしょうか。ストーリー上では男性がヒロインに惚れていたように書かれていますが、実は最初で勝負は着いてたんですね。みんな爆発しろ。



 強気っ子グリゼルダ。裕福というわけではありませんが、都市部に住んでいるということでファッションにも気を使っています。(TINA)

 表情が勝気ですねー。挿絵のほうは表情差分があるので見てて楽しいかと思います。なんか今見るとラーメンみたいなデザインですね。おなかがナルトで腕がメンマ。当初そんなつもりはまったく無く、イタリアっぽさを出そうとしたんですけどね!(かずしま)