海の貴婦人 採集地:デンマーク
「世界民話館 人魚の本 "かきだして!"」より
 人魚シリーズ。

 原版は「Rake up!」というシンプルなタイトルで、人魚の復讐に焦点を当てたものになっています。

 Fairytaleには珍しい倫理観(?)を説いたお話です。人魚や魔法の力を持った牛が出てきたりしますが、ファンタジックな側面よりは人間の“業”を強調したストーリーで、ほぼ原版通りの話になっています。人魚の報復もマイルドですし、なかなかいい感じの落としどころでしょう。

 原版では「人魚」とは書かれておらず「海に住んでいる人」と訳されています。海底には人魚の町や国があると考えられていましたし、この話では実際に牛も飼っているわけですから、「海に住んでいる人」という訳は「人魚」が持つ個人的なイメージよりも集団的、民族的なイメージを前面に出したいい翻訳だと思います。その他、街の代表は肉屋、仕立屋と公証人でしたが、ややわかりにくい職業だったので商人に変更しました。(金勘定に細かいイメージは残ってると思います)

 エルセと主人公のやりとりにもありますが、現代の乳牛や食肉用の牛は品種改良で生み出されたもので、この話に登場する牛はオーロックスのような野生種だったと思われます。

 このストーリーに限らず、人魚は金銀財宝好きで、ため込んでいるというイメージがあります。どこからそうしたイメージが生まれたかは解りませんが、現代にいたっても海中、海底は解らないことだらけなことを考えると、昔の人が海中の世界に神秘的イメージを抱いたのは当然と言えます。人魚は海に成っている宝石を集めるという話もあれば、難破して沈んだ船の財宝を集めているという現実的な話もあります。真珠が貝から採れるのは古代から知られていましたし、海岸に打ち上げられる琥珀などは海から出来ると思われていました。貴金属の鉱脈も(採算が合うかは別として)海底から採れてもいいはずで、古人のイメージはあながち間違いではないと言えます。

 自由奔放なこの人魚は、妖精の本質に近いものがあると思います。文献を遡ると二股の人魚が多いのですが、今回も魚バージョンに。この体型でどうやって牛の背中に乗るんだろう…。(TINA)

 前回の人魚はグラマーさんだったので今回はスレンダーな人魚で。みつあみの先は特に結ばれてなく、不思議パワーで髪が絡まってるようなイメージ…です。体と魚部分のつなぎ目はどうなってるんだ…! と、わりとどうでもいい部分でとても悩んだ覚えがあります。結果、もやっとぼかしてみましたが、もし次人魚話があればもうちょっと何か描きこんでみようと思います。(かずしま)