きりのない願い 採集地:フランス
「フランスの民話・上 "きりのない願い"」より
 典型的かつ短く綺麗にまとまったFairytaleです。34話と同じくアンリ・プーラ(Henri Pourrat/1887-1959)の本からの出典ですが、生没年を見ての通りかなり現代に近い人なので、話に登場するアイテムも中世にはなかった(あるいは似合わない)ものが登場します。特に願い事のシーンは時代を考えて変更を加えているため、以下に原版を載せておきます。

「奥さま、では手始めに、私に綺麗な革靴をくださいな」
(中略)
 そう、マジパンのお菓子です! それが二番目の願いでした。それから三番目の願いには、妹が足が悪くてびっこを引いていましたので、他の小さな子供のように歩けるようにお願いしました。
 それから赤いペチコート、それからリボンが後ろに垂れた、糊のきいた帽子、それからダマスク織りのコート、それからしゅすのタブリエ(うわっぱり)。
(中略)
 お砂糖のキャンディ、まあるいオレンジ十二個、コリント産のブドウの実、白と茶色のヌガー、「四人の物乞い(※干しイチジク、干しブドウ、ハシバミの実、アーモンドの四種類が入ったデザートのこと)」、ザクロの実三つ。
 それからこの娘の望みはもっともっと大きくなりました。もう見境なく願い事を始めたのです。手鏡、金色の帯、バラ色の金襴どんすのドレス、銀の糸で刺繍がしてあるおらんだ製のハンカチ、真紅のビロードの鞍を置いた灰色の毛のロバ、金メッキの銀製のはさみで、金ぐさりがついているもの。
(中略)
 首にかけるために聖霊のしるしである鳩のペンダント、これはガーネットで細工してあるもの、そしてこれと合う耳飾りも。自分のお部屋を賑やかにするあめに真鍮の針金で作った鳥籠にはいったカナリア。
 突然、女の子はお話のマリ・サンドロンのようなガラスの靴をお願いすることを考えつきました。それからやっぱりお話の「ロバの皮」にあるような、それぞれ、星と、月と、お日さまの色をした三種類のドレスも。

 願いの中身を見ていくと、実に女の子らしい内容が並んでいます。マジパン(フランス語で言えばマスパン)は砂糖を使うものなので、中世にはなかったか非常にレアだったはずです。タブリエとはエプロンのような服のことです。マジパンと同じく、砂糖を原料とするキャンディはほとんどなかったと思います。はさみは仕立屋などで使われていたと思いますが、きらびやかな装飾のものは中世庶民には縁がなかったでしょう。(そういう意味で、プーラが想像したのはルネサンス期以降の世界だったと思われます)「マリ・サンドロン」はサンドリヨン、すなわちシンデレラのことです。「ロバの皮」はペロー童話集に収録されている、近親婚から逃れる王女の物語です。

 後半部分に「コウモリが髪を抜いていってしまう」というくだりがありますが、これは夜更かしする子供を脅かすために大人が使った手段で、6話「エインセル」も似たような性質を持っています。コウモリの脅しは以下の様な歌の形で知られています。

 早くおやすみ、さもないと、
 悪いコウモリ やって来て、
 お前の頭におしっこかける、
 そしたらお前に 髪はない!

 ストーリーについてはほぼ原版通りでせすが最後にご褒美をひとつ足してあります。(オリジナルでは妹の足が治っただけです)気まぐれな妖精のことですから、これくらいはなんともないでしょう。

 最後にジョゼットがどれくらいの願いを口にしたか、ということですが、一般的に言って人間の髪の毛は5〜15万本、主人公は女性であることを考えると10〜15万本くらいでしょうか。これだけの願いごとはさすがに思い浮かばない気がしますね。

 時代を問わず、実に女の子らしいヒロインです。職業は書かれていませんが、家事手伝い(と言っても、当時は本当にいろんなことが出来なければならなかったわけですが)だったのではないかと思います。服装はかなりファンタジー寄りですが、その髪に比べれば些細なものかもしれません。頭重くないのかな…。なにしろ、手入れが大変だったことでしょう。(TINA)

 服装は比較的質素で普通な感じです。今回の特徴的な箇所はスーパーロングへアーでしょうか。
 くるぶしくらいまであるので水に濡れたりしたらとても重そうです。2次元では割とよく見ますがリアルでこの長さだと生活しづらそうですね…。このお話では途中頭がツルツルになってしまいますが、挿絵がそのシーンじゃなくて本当によかった…。さすがに可哀相で描きたくないです…。(かずしま)