最初の剣と最後の箒 採集地:イタリア
「ペンタメローネ "ベッルッチア"」より
 タイトルは「イタリア民話集(Fiabe Italiane)」"La prima spada e l'ultima scopa(First Sword and Last Broom)"より。冒頭は若干似てる部分がありますが、展開部分からラストまではまったくの別物です。オリジナルもなかなか面白いストーリーですが、Ringlet版の採集基準からは外れている部分も多いので残念ながら未収録になりました。

 日本でも近代までそうだったように、欧州でも女児は(政略結婚を別にすれば)男児に比べ価値が低く、男児をもうけない妻は肩身が狭かったようです。パルミエリ家の父も、世間に対する見栄えの悪さから「男が4人、女が3人」と答えているのでしょう。

 男性を剣に喩えるのはよく解りますが、女性を箒とするのはすんなり納得出来ない感じもします。けれど、他で喩えろと言われるとこれも困るわけで難しいところです。(西洋では一般的に糸紡ぎが女性の仕事だったので、それに関するものでしょうか)

 男装した女性を見破ろうとするストーリーも、女装した男性を白日の下に晒そうとするストーリーもFairytaleではよくあるテーマで、最終的にばれなかった、ということはないと思います。(そうでないと話が成立しないので)有名なところでは古代ギリシャのアキレウスが女装して兵役を逃れようとした話があります。しかし、(たぶん)超マッチョだった彼の女装はなにもしなくてもばれたと思います…。あるいは古代ギリシャの女性はみんなたくましかったのかもしれませんが。

 さて、看破作戦はといえばこれまた様々ですが、「当時の男性(女性)が一般的に出来たことを試させる」のがポピュラーです。このストーリーで紹介されているものの他には「裁縫をさせてみる」とか、「豆をまいてみる(男ならかまわず踏んで行くが、女なら避けて通るという作戦)」、「豪華なドレスと鍛え上げられた武具のどちらかを選ばせてみる(オデュッセウスがアキレウスを見つけたやり方)」といったテストがありました。また、バルカンの民話「イレアナ・シムジアナ」では枕元に置くと、男ならそのまま、女ならしおれてしまうという花が登場します。

 原版との変更点はふたつで、ひとつ目は主人公が相談する相手は原版では母親なのですが、友人に変更しています。このストーリーに限らず、男の主人公が相談する相手は圧倒的に母親が多いように思われます。男はいつまで経っても母親っ子というのは世界共通なんでしょう。もうひとつは、末娘を試すための作戦その二で、原版では「猟銃を扱えるか否か」というものなのですが、十字弓(クロスボウ)に変更しています。原版の「ペンタメローネ」は1634-36年に発表されましたが、その頃、銃が一般市民が気軽に扱えるものだったのかどうか疑問だったからですが、ユグノー戦争(1562-98)を描いた絵画を見てみると、1572-73年の第四次戦争および76-77年の第六次戦争ではかなりの兵士たちが銃を使って戦っている様子が見て取れますので、裕福な家庭では猟銃もあったのかもしれません。

 そこから離れれば、なんてことはないリア充爆発しろシリーズです。最初に脱がしてみようと言う発想に行かなかった友人(原版では母親)は馬鹿ですね。

 ストーリーでは片方は七人姉妹、もう片方は七人兄弟になっていますが、仮にアレッサ(最後の箒)が15歳だったとすると、全て年子だとしても長女は21歳になります。乱暴に言って中世欧州の女性たちは平均結婚年齢が17-20歳と言われている一方、男性は25-30歳前後だったとされています。そんな中で、末の弟(この話に従うなら「最後の剣」)が果たしてどんな気分だったのかというのはこの物語とは別に興味があるところです。他の六組はどうやってペアを決めたのかも気になります。



 男装バージョン。こんなに可愛い子が男の子はずがない。家は農民ですが、雑用っぽい服装になっているのは男の子の服を市場から借りてきたからという設定なんですね。港湾労働者っぽいイメージです。横髪を切るか悩んだ末に残してあります。ベストはホントは左前なんですが、挿絵版でも映っていないので…。(TINA)

 男装エルセですねー。男性の服装は今までデザインしなかったんで新鮮な気持ちで描く事ができました。
イタリアの服装は現代の自分から見ると奇抜な見た目の物が多くどうしたものか凄く悩んだんですけど、なんとかして可愛らしくまとめようとしてみました。
 下半身がストライプ模様なタイツ一丁というのは個人的に凄く嫌です……。中世イタリア人よズボンをはいてくれ……。横髪は無いとエルセの特徴がなくなってしまうのでやっぱり残すことに。
 挿絵がカラーだったら無くても大丈夫だったかも。白黒だと金髪ということが伝わらないからしょうがないですね。挿絵では水に映った姿を眺めるという構図だったのでベストの前合わせや前髪の分け目がどっちになるか混乱してました。(かずしま)