星の夫 採集地:北米
「アメリカ・インディアンの民話 "星の夫"」より
 原板はキャドー族(Caddo)の物語からですが、資料によれば「星の夫はインディアン神話の中でも人気があり、様々なヴァリエーションを通じて広く知られている。ノヴァ・スコチアからワシントン州沿岸までの全域の部族に見出され、ピュジェット・サウンドとオリンピック半島では「変化する者(クワテー)」誕生物語と結びついているが、別の地方ではシンプルに「地上の人々が天空の人々を訪問する」話となっている」とあります。

 解説を加えるとノヴァ・スコシア州は大西洋岸、、ピュジェット・サウンド(ピュージェット湾)とオリンピック半島は現在のシアトルとその周辺を指すのでワシントン州ということになり、こちらは太平洋岸なので文字通りアメリカ全土に伝わっていると言っていいでしょう。

 Ringlet版では「地上の人々が天空の人々を訪問して帰ってくる」方の「主役がひとりだけ」という最もシンプルなバージョンを採用しました。
 参考として「アメリカ・インディアンの神話と伝説」から「主役がふたり」、「後半が変化する者の物語」のあらすじを載せておきます。

 ふたりの姉妹が星空を眺め、どの星と結婚したいかを語る。
 ふたりは願望を語り、目が覚めると星の国でその通りになっている。
 ひとりの相手は若者で、ひとりは老人であった。(この話では姉の配偶者が若者、妹が老人)
 ある日、ふたりが星の国で根っこを掘っていると、地面を貫通して地上が見えた。
 ふたりは地上に帰るため、長いロープを作って降った。
 地上に戻って姉は男の子を生んだ。
 子供は盗まれてしまい、何年も後に北の大地で大カケスが見つける。
 彼はカケスに戻ると伝え、弓、矢、戦闘用の棍棒、モカシンの使用法、制作法などを伝え、多くの薬草を持ってきた。
 陸には動物と鳥を、水には魚を置いた。魚取りの罠も伝えた。
 その頃、石は命を持っていて、虫は大きかったが、彼(変化する者)はそれらを無力化した。
 さらに変化する者は蛇を無毒化し、すべてのものを作る方法、ゲームをする方法、病気を治す方法、精霊の力を得る方法も教えた。
 天へ昇り、弟(ゆりかごから作った木人)を太陽に据えて、蛙の娘と結婚し、自分は月になった。


 この物語は後半部分、娘が地上に戻るシーンで特に多様な展開を見せています。
 途中で綱の長さが足りなくなってしまうところまでは概ね共通していて、Ringlet版の「黒鳶と鷲に交代で降ろしてもらう」他に以下のようなヴァリエーションもあります。

 ・娘が降りたと思ったのは地上ではなく高い木の上にある鷲の巣で、彼女は地上の動物に助けを求めるが、クマとオオヤマネコには拒否されてしまう。最後にクズリ(クロアナグマ)に助けてもらう。しかし、地上に降りた娘はクズリに恩を返したくなかったので、彼を騙して逃亡する。
 ・穴を覗いていた星の住民が、(親切心で)彼女に向けて小さな石を落とす。石は頭に当たり、手を放した娘は地面に落ちる。彼女はその石を持って村に帰る。

 かなり古い資料になりますが、スティス・トンプソンの「民間説話 世界の民話とその分類」にも星の夫(星婿)について詳しい解説が載っています。
 要約すると大きく三種類に分けられるとあり、下記のように分類されています。

1.二人の娘が星と結婚したいと願い、叶えられるが、帰りたいと思って大地に穴を掘り綱を降りる。最も基本的な話。

2.1から発展したもので、大草原地域によく見られる。天の男がヤマアラシとなって娘を木の上に誘い出し、成長した木が天上界に到達する。妻は子供を生むが帰りたくなり、綱で降りるが短くて届かない。ヤマアラシは穴から投石して妻を落とし殺すが子供は助かる。この子供はたいてい英雄譚(変化する者/クワテー)になる。

3.ノヴァスコシアから英領コロンビア北部を弦月の両端とすると、この分布はカナダ内陸部に限られる。二人の娘が星の世界に行き、戻りたいと願うところまでは同じだが、降りる途中で目を開けるなというタブーを破り降りられなくなる。トリックスターを騙して無事に降りる。これは北部大草原において発生し、東西に広がったという。

 物語全体を見てみると、北米インディアンにおいて太陽と月の性別はふらふらとして定まっていないように見えます。しかし、星を伴侶に願うのはどの物語でも必ず女性です。つまり、星は一貫して男性と思われているのは興味深いところです。(この話には星の妹が出てきますが、彼女と結婚しようという男性は登場しません)

 2024.08.05追記

 チェレンテ族の物語に若者が「ひょうたんの中に星を閉じ込めて愛でたい」と願う物語がありました。その願いは叶って星の娘がやってきますが、星の世界は死者の国で、若者はなんとか逃げ出しますが、すぐに具合が悪くなり死にます。結局、星の娘が「逃げても無駄。あなたはきっとすぐ戻ってくる」と言ったとおりになった、という物語です。
 星や天の世界に行くというのはよくある話ですが、たいてい問題になるのは行き方で帰り道がクローズアップされるのは珍しい気がします。
 もし、星の夫が若いイケメンだったら星の世界に残ったんだろうな…。 (TINA)

 星に憧れて…、というのがとてもファンタジックで、そのあとに続くあれこれがまた楽しいお話でした。
 星の夫さんがイケメンで、トゥンク…となりましたw(宣教師ゴンドルフ)