小さなヴォヂャノイと作男 採集地:ロシア
「ロシアの民話・1 "抜目のない作男シャバルシャ"」より
「ロシアの民話・1 "熊の子イワン"」より
 ロシア民話研究の第一人者アレクサンドル・N・アファナーシエフ(Aleksander Nikolaevich Afanasyev,1826-1871)がまとめた本の中には、ほとんど重複しているといっていいものが多く見受けられます。ストーリーのベースラインはほぼ変わらず、細部やエンディングのみが異なるという民話は、それだけ有名で親しまれている証拠なのでしょう。これはそうしたタイプの一種で、ベースラインは「川に住む悪魔(※翻訳版は"悪魔"となっていましたが、妖精とか精霊という言葉の方が適当だと思わます)の子供を騙して金品を巻き上げる」という話です。

 ロシアでは水の妖精を一般的にはボジャノイ(Водяной)と呼びますが、これには様々なイメージがあり、一定しません。原版では川の中から出てきたのは「真っ黒なジャケットを着て、真っ赤な帽子をかぶった男の子」でしたが、Ringlet版ではエルセに合わせて女の子に変更しました。また、Ringlet版では「ロシヤの神話」に習ってヴォヂャノイと表記しています。

 ヴォヂャノイはすごいパワーを持っているのですが、主人公の巧みな話術と動物たちの前にことごとく敗れてしまいます。それでも、妖精は落ち込むことなく次々と再戦を仕掛けてきます。最終的には金銀財宝を手放すことになってしまいますが、それでも命が助かった(と思っている)ことの方を喜んでいるような描写がなされていて、なかなか可愛くて憎めないストーリーになっています。

 亜種によっては貯めていた宝物だけでは足りず、自身も小作人として連れて行かれてしまうエンディングもありますが、Ringlet版ではカットしました。その代わり、上記のような無邪気さのしるしに釣り道具を手に入れて満足するというエンディングに変更しています。

 なお、勝負方法は各地の類似バージョンから取捨選択したもので、他にこんなものがあります。

 ・どちらが強く息をふけるか。
 ・どちらが遠くまで馬を運べるか。

 解説に何度か登場する「ロシヤの神話」は、おそらく日本国内におけるヴォヂャノイについてもっとも子細にまとめられた本で、それによればヴォヂャノイとは以下の様な存在だそうです。

 ヴォヂャノイは池沼、または川や湖に住んでいる妖精の総称で、ロシア語で水(ヴォダー)からの派生語。一般に髪をぼさぼさに伸ばした老人の姿をしているといわれ、水の底で財宝を溜め込んだ家に家族とともに暮らしている。ヴォヂャノイは人を溺死させたり色々な悪さもするが、義理堅く、大酒を飲んで大盤振る舞いをするといった面もあり、ロシアでは河で漁をする際には彼への敬意を決して忘れない。

 このように、恐ろしくも親しみのある水の妖精というのがヴォヂャノイのイメージのようです。この話では小さなヴォヂャノイ(エルセ)がおじいちゃんと呼んでいるのが彼なのでしょう。

 また、話中には小さなヴォヂャノイが熊や兎を相手に戦うシーンが登場しますが、これも「ロシヤの神話」によれば、熊や兎や狐はヴォヂャノイとライバルにあるレーシイ(ロシアにおける森の妖精)の支配下にある動物で、ヴォヂャノイたちはその言葉を聞いただけでもひどく不機嫌になる、とあります。彼らが対戦相手に選ばれているのも偶然ではないのかもしれません。



 水のツァーリ(皇帝)、ヴォヂャノイの孫娘エルセ。アホの子。財宝を溜め込んでいる描写もあるので衣装も豪華めに。ところどころに水辺や河を連想させるアクセントを身に着けているところが可愛いですね。ヴォヂャノイ(この話で言えばおじいちゃん)に関してはいくつか描かれているものの、孫娘をイラスト化したのは世界的に見ても珍しいのではないかと思います。挿絵版ではスカートと靴が変更されていますが、あんまり見えないかも…。(TINA)

 資料がほとんど見つからず服を考えるのにものすごく難航しました。最初はもっと派手派手な服装だったんですが最終的に削ってシンプルに。水の中にいるとストールが魚のひれみたいにヒラヒラして綺麗なんじゃないかな? 服装に関してではないですが、挿絵の背景の雰囲気はオフィーリアの絵を意識してみました。ドローンとした沼の感じとか…。画力の問題であんまり伝わってこないですけどね!(かずしま)