| サフラーの秘密 | 採集地:イラク |
| 「イスラム帝国夜話 "墓の盗掘に快感を覚えてしまった良家の子女"」より | |
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原版はバグダードの詩人アブルムギーラが語ったもので、知人イーサー・ブン・ウバイドッラーが友人の体験談を聞いたものを又聞きしたものとしています。また、その友人はラムラ(現在のパレスティナ)でこの体験をしたと語っています。これが本当だとすれば、十世紀後半にあった話ということになります。 このストーリーではいくつかの習慣、イスラームでは女性は家族親族以外の男性と食事をともにしたがらないこと(曖昧な表現ですが、地域差や年代差、あるいは個人の信心によってゆらぎ幅が大きい点に注意)、墓には丸屋根があること、食事は現代と同じく手食であること、離婚や結婚の誓いは大きな拘束力を持つことなどが解ります。 イスラームは土葬文化なので装飾品を身に着けたまま葬られることも多く、墓荒らしもそれなりにあったようです。ですが、今回の女性は金品目当てというわけではなく「墓を掘るという行為」そのものが目的だったわけで、作者も記述に値する珍しい事件だと思ったのでしょう。 原版著者はムハッスィン・ブン・アリー、部族名タヌーヒー(938−994)でアッバース朝の司法官を務め、宰相のサロンに出入りする人物だったようです。優れた記憶力と逸話蒐集の趣味があり、出典である「座談の粋として記憶すべき数々の物語」という全十一巻の大著を始めとして、複数の本を執筆しています。残念ながら完本は散逸していて、第一巻から三巻、および八巻以外は二次文献が残るのみですが、今後、どこからか写本が出てくる可能性も十分あると思います。 Ringlet版では最後に戻ってきてから自分の墓を掘られるシーンを追加しました。原版では離婚して街を離れたきりと語ったシーンで終わっています。若干デレ成分を追加できたような気もしますし、性的嗜好を貫き通したようにも見えます。また、Ringlet版ヒロイン名のサフラーにはアラビア医学における四体液説の「黄胆汁」の意があり、性格もそれっぽい感じなのではないかなと思います。 |
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墓荒らしはもちろんイスラームでもよろしくない行いですが、それを覚悟の上で続ける初志貫徹系ヒロイン。どこで目覚めたのか気になるところです。邦訳版の「お前さま」はぴったりで、訳者のセンスが抜群ですね。個人的にとても好きな話。(TINA) これまでになかったタイプのダークな雰囲気です。どこまで表情を後ろめたく、暗くしようか…と悩みました。(宣教師ゴンドルフ) |
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