| 戻らなかったミルッカ | 採集地:エストニア |
| 「世界の民話3 北欧 "霧山の王"」より | |
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本の区分上ではフィンランドとなっていますが、解説ではエストランド(現エストニア)と書かれていますので採集地はエストニアにしました。 独自色の強い物語で、Fairytaleにおける"お約束"を覆すストーリーになっています。 主人公のミルッカは村での生活に嫌気が差していて、最後まで馴染めず妖精の社会に身をおくことを決断する点、妖精が彼女を養い子として庇護し、人間に報復を行う点などは他のFairytaleではあまり見られません。 その一方で、たった二日間遊んでいただけなのに七年も経っていたり、不思議な力のブローチが出てくる点などは従来のFairytaleと同じで、ストーリーをさらに魅力的なものにしています。 物語に登場する妖精は最後まで無名ですが、はっきり「ひとつ目(単眼)」と書かれています。同じ北欧の妖精トムテ(第十四話参照)も古い文献では単眼と記されており、この地域に特徴的なものかもしれません。 子供はびっくりして引き返そうとしたが、その老人はもう気がついてしまって、厳しい子で叫んだ。 「止まれ、さもないと鉄棒をお前に投げつけるぞ。俺は目がひとつしかないが、手も目も同じようにたしかだから、決してあてそこなうことはない」 子供はふるえながら立ち止まった。老人はそばに来るようにと言ったが、娘が恐ろしがってぐずぐずしていると立ち上がって手を掴み、 「こっちへ来て火にあたれ」 と言った。 本の解説では下記のように書かれています。 「霧山の王」…霧は見通せないもの、動きの早いものの象徴。 「芝原の母」…農場の守り神。 「フィン族ではよく知られている古い物語で、古くからの民間信仰の要素が含まれています。ここには良い人間を守ってくれるやさしい山の神さまに対する人々の信頼がよく表されています」とあり、どちらかといえば少女に肩入れした内容になっています。(村の人たちは畑をダメにされて散々な目にあっているので) なお、現在のエストニアはとても平坦な国で国内最高峰でも318メートルということなので、このストーリーは地域的にはフィンランドのどこかである可能性が高いように思います。 |
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妖精たちと暮らしていくことを選んだミルッカ。人間社会を離れて暮らすというエンディングは時折見られますが、女性主人公の場合はたいてい「連れ去られた」というように人間社会視点から語られていて、この物語のように自らの意思で距離をとることが書かれているストーリーは珍しい気がします。一方で、男性主人公の場合は妖精の国や社会で伴侶を得て暮らす、というストーリーがしばしば見られます。 中世ヨーロッパの女性の地位については一般の想像ほど低くはなかったと思われますが、性犯罪や暴力の被害は現代とは比べ物にならず、自由という意味でも大幅に制限されていたことは疑いありません。なので、こうした生き方を選びたいと願った女性は少なくなかったのではないでしょうか。(TINA) 今回のお話は、ブローチが印象的なアイテムだったのでぜひ描いてみたいと思い、挿絵はエルセちゃんの手にそれがおさまる場面を選びました。 エルセちゃんのむこう側にいる、ブローチを渡してくれた不思議な存在はどんな姿なのか…。物語を読みながら想像してみてください。(宣教師ゴンドルフ) |
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