不屈のグンヒルト 採集地:デンマーク
「北欧の民話 "辛抱強い奥方"」より
  Ringlet版の採集地はデンマークとなっていますが、これは珍しく起源を辿ることが出来る話で、もともとは14世紀半ばにイタリアで成立したボッカッチョ(Giovanni Boccaccio,1313?-1375)デカメロン(Decameron)に最終話としてほぼ同じ形で収録されているものです。わざわざ最終話に採用していること、また、同年代のカンタベリー物語(The Canterbury Tales)にもそのままの形で収まっているところを見ると、当時からメジャーな話で、なおかつ人々に受けが良い、あるいは共通の美徳として認識されていたのではないでしょうか。

 自分たちの民族を語る場合、頭に"誇り高い"と付けないところはないと思いますが、これは欧州における名誉についてのあり方を示したストーリーと言えます。デンマーク版ではデンマーク人がいかに忍耐強いか誇られていますし、イタリア版でも同様にイタリア人の辛抱強さを美徳としています。(イタリア人、という言い方は少し難しく、当時の彼らはローマ人の末裔と考えていたはずです)

 王様が求婚するシーンで原版からカットした部分があり、オリジナルでは王様は娘にその場で裸になって服を着替えるように要求しています。河出書房新社版(2012年)デカメロンには各話についての詳細な解説が載っていて、このシーンにも重要な意味があると記述していると同時に、この話そのものを最終話に収めたのはつまらない(=失敗)ではないだろうか、とも書いています。

 現代の私達からみると、10年以上もイジメに耐え続けたヒロインは称賛されるべきだと思いますが、それと同様に王様がそのチャレンジを褒め称えられているのは腑に落ちないかと思われます。(むしろ、現代の倫理観点から見ればDVの極みのような案件でしょうが、この倫理観はこの21世紀に成長した、新しいものであるという点に留意すべきでしょう)

 このストーリーを理解するには当時の常識とされていたこと、女性蔑視感を踏まえておく必要がありますが、現代ではあまり受けが良くない話と言えます。
 
 いじめに耐え続ける門番の娘……なのですが、王宮入りしてからの能力の高さなどは天性の才能と言えます。一般庶民ですが、御幸の見物ということで、少しだけ服にも気合が入っています。王様はひどいやつですが、人を見る目だけは賞賛されてもいいと思いますね。(TINA)