カロパリン 採集地:北アメリカ(エスキモー)
「The Central Eskimo "KALOPALING"」より
 底本としたフランツ・ボアズ(Franz Boas 1858-1942)の「The Central Eskimo」(1888年)ではKalopaling(カロパリン)またはKalopalit(カロパリット)と記述されていますが、日本ではクァルピルイット(Qallupilluit)またはクァルパリク(Qalupalik)の名前で知られているようです。

 海岸沿いの流氷近くに住む水棲生物(?)で、簡潔に言えば半魚人のような姿形、すなわちぬるぬるした皮膚にひれと鱗を持ち、髪は長く乱雑、足が大きく、手には水かきがついていて歩くよりは泳ぐ方が得意であり、水鳥の羽で作ったアマウティック(エスキモーの服、大きなフード付きパーカー)を着ていると言われています。
 また、言葉を話すことは出来ず、ただ「ビー! ビー!」とだけ啼き、超自然的な力で自分の姿を変えたり、相手を硬直させたり出来るとされます。
 別資料ではカロパリンは主に女性として描写されるとありますが、ボアズはすべてHeの人称代名詞を使っています。

 カロパリンはどちらかといえば人間に敵対的で、猟師を追いかけて来る、カヤックが転覆すると乗っていた人間を大きなフードに捕らえる、海に近づきすぎた子供たちをフードに入れて誘拐し、自分の髪を梳かさせたり、時には食べてしまう等とも言われています。(これらは子供たちに対する脅しであり、エスキモーにおけるブギーマン的役割を担っていることが伺えます)

 人間もカロパリンに反撃することがあり、特別な手順を正しく踏めば仕留めることが出来ると書かれています。
 また、勇気ある猟師はカロパリンの肉を食べたことがあるらしく、人間には有毒だが犬の食事にはなると言われています。

 エスキモーによれば、昔はカロパリンが数多くいて、氷河に沿ってまるでペンギンの群れのように一列に座っていたそうです。しかし、時代と共にだんだん少なくなり、今ではほんの数匹しかいないと言われています。

 ボアズはカロパリンに続いてもう一種類の奇妙な生物を報告しています。
 それはUissuit(ウイススイット?)と呼ばれる水棲生物(?)で、非常に小柄(Dwarf)であり、海の深いところに住んでいて決して水面には上がってこないと書かれています。エスキモーたちは彼らをなんとか引き上げようと沖へカヤックを漕ぎ出し、釣り針をゆっくり上下させて引っかかるのを待ちます。しかし、ウイススイットは釣り針にかかって引き上げられそうになると、真っ逆さまになって海底へ潜るので、水から引き上げるのに成功したことはないそうです。彼らはカロパリンと違って敵対的だとは書かれていませんし、そもそも向こうから接触してくることもなさそうです。

 Ringlet版では祖母と孫の話をベースに、孫息子を孫娘に、偉大なハンターになる結末を魔術を学んで呪術師(アンガコック)になる結末に変更しました。
 カロパリンは子供を奪い返されることを警戒しており、子供の方もカロパリンとの生活を、少なくとも祖母と同居しているよりはマシだと思っているのは確かです。拐われた後、海中で暮らしていた孫は明らかにカロパリンの超自然的な力の加護を受けていますので、アンガコックになる結末はわりと自然ではないでしょうか。
 極寒の北極海での海中暮らしですが、意外にも海中資源は豊富です。好き嫌いがなければ案外面白いかもしれません。本編には書いていませんが、戻った後もカロパリンと話してたりしたんだと思いますね。(TINA)

 今回は背景をメインに、広々とした海に冷えて澄んだ空気感が伝わるように描いてみました。(宣教師ゴンドルフ)