名判事リズ 採集地:イギリス
採集地:フランス
採集地:ルーマニア
「イギリスの昔話 "百ポンド入りの財布"」より
「フランスの民話 "びっくり計算"」より
「世界むかし話12 東欧 〜三本の金の髪の毛〜 "五つのパン"」より
 機知によって見事に解決された三つの話を一つにまとめました。Ringlet版には載せませんでしたが、人々が裁判官や王様やその他の偉い人たちに争いの判決を求め、それを見事に解決するという類の話は無数にあり、人気があったことを想像させます。

 第一の話「百ポンド入りの財布」(イギリス)

 ポンドで解るようにイギリスの話です。この話は機知というよりは頓智的ストーリーであり、商人は礼を惜しんだことで全部を失うことになってしまいました。正直に生きなさい、という教訓的要素を含んでいるのでしょう。

 

 第二の話「びっくり計算」(フランス)

 次はフランスの話です。単位がピンと来ないので円に直すと、最初の羊は1円、次からは倍にしていこうというイメージでかまわないと思います。最初の一頭は1円、二頭目は2円、三頭目は4円と聞くと、とてもお買い得に思えますが、コンピューター関連に少し詳しい人なら2の24乗で約1677万とすぐに気が付き、嫌な予感がすると思います。
 実際に計算してみると三十六頭目は約343億円、合計では約687億円になります。
 美味しい話はなかなか転がっていないというわけですね。

 原版では単に天文学的な金額になるという話だけで終わっていますが、Ringlet版では売買の証人としてたまたま通りかかったリズが生涯困らないお金を手に入れることにしました。おそらく、彼女が一番の勝者でしょう。

 第三の話「五つのパン」(ルーマニア)

 もっとも高度な機知の話で、少々傲慢な友人をやりこめる話です。原版では通貨がペニーでしたが、これはオリジナルを英訳した際に通貨もイギリス風に変更してしまったからだと考えられます。(ルーマニアは長らくオスマン帝国の一部でしたので、オリジナルはそれに習ったものだったと思われます)Ringlet版ではオリジナル通貨を導入しています。

 三つのパンと二つのパンを供与した男たちに対して支払われた5枚のお金をどう分配するか? という問題です。もっとも理に適っているのはやはり3:2に分けることだと思いますが、二つのパンを持っていた男は2.5:2.5を主張します。(この0.5にどれほどの価値があるのかは本編では解りませんが)
 リズの出した答えは本編通り4:1だったので、二つのパンの男は0.5を取ろうとして1失ったことになります。算数として考えると、リズは二人の男が持っていたパンの割合ではなく、旅人が受け取ったパンの割合で判断を下したことになります。(3-5/3:2-5/3)

 最後に男が1枚を返すシーンはRinglet版オリジナル書き足しになります。このくらいの情けはあってもいいかと。

 裁判制度は都市と農村でだいぶ異なっていた印象があり、有力者や聖職者に裁きを求めることも多かったように思われます。そんな中で、今回のエルセは知識人として裁きを求められる立場になってもらいました。裁判官のユニフォームは見当たらなかったので、大学の講師服をアレンジしてもらっています。裾を引きずるような長さの服なので旅には向かないでしょう。また、知識人のシンボルとして本を持っています。当時の本は一冊一冊が手作りで貴重品でした。また、羊皮紙となめし革、または木製の枠を使用した本は大変重く、片手で持っているエルセはかなりの力持ちだと言えます。(TINA)

 今回初めて挿絵で参加させていただきました。裁判官という大役にキリッ!とした表情で挑むエルセちゃんというイメージで描いてみました。いつもよりかっこいい姿で見事なお裁きを披露するエルセちゃんをお楽しみいただけましたら幸いです。(宣教師ゴンドルフ)