| 魚になったマリカ | 採集地:スペイン(カタルーニャ) |
| 「アンドルー・ラング "世界童話集第十巻 だいだいいろの童話集"」より | |
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人魚シリーズ。リア充爆発しろシリーズ。 ちぐはぐな印象を受けるストーリーで、オリジナルはともかく収録版はかなり後世に書かれたものと推測されます。Ringlet版では小説的および近世的描写をカットし、尺もオリジナルの2/3程度に縮めてあります。 ストーリーを分解してみると以下のようになります。 ・呪いで魚に変身させられてしまう。 ・海の底には魚たちの国がある。 ・女王様から「何にでも変身できる能力」をもらう。 ・変身能力を駆使して巨人の城へ潜入する。 ・途中で後の伏線である王子に会う。 ・巨人の難題をクリアする。 ・解決後、王子と出会った伏線を回収する。 場面が目まぐるしく展開するストーリーとも言えますが、昔話の型からは逸脱している部分が多く、また、近世以降に(ストーリーが)整えられたと思える点も多く目につきます。 理由を挙げていくと、以下のようになるでしょうか。 ・主人公の成長が不明瞭である点。主人公の少女が最後に改心したという描写はないし、それほど傲慢ではなかったとしても、気が向いて手伝いを願い出た時に魚に変えられてしまうのでは釣り合いが取れない。 ・巨人との約束の中で、一度目は物理的に解決するが、二度目は頓智的に解決する。 ・ストーリーのメイン部分である「なんにでも変身できる能力」に「(言葉を話すことが出来る)オウムに変身する」という描写がある。オウムはアジア原産であり、古代からシルクロードやインド、アラビアを経由してヨーロッパにもたらされていたのは違いないが、一般に知られるのは大航海時代以降。 最後の描写部分については、Ringlet版ではカットした原文を載せておきます。いずれも、昔話でここまで細かく描くことはないでしょう。 ・最初の魚になってしまったシーン。 ところが、口をつけた途端、ぞくっと全身に震えが走った。頭が平べったくなり、目が不自然なほどまん丸くなった気がする。脚と腕は身体のわきにくっついている。むすめは苦しくなってはあはあとあえぎ、勢いよく(家の)窓をつきぬけて、川に落ちた。するとすぐに気分がよくなって、近くの海まで泳いで行くことが出来た。 ・魚の女王の宮殿に向かうシーン。 だれも、その魚の群れが女王の宮殿に向かっているとは夢にも思っていなかったが、そもそも陸地の住人は、海の底でどんなことが起きているのか、ほとんど知らないものだ。当然のごとく、魚になったばかりのむすめもそうだった。陸地にいた時は、せいぜいクラゲとオウムガイが水面の少し下を泳いでいるのや、美しい色をした海藻が漂っているのを見たことがあるくらいだ。今こうして海の深い深いところにもぐってみると、不思議なものが目に止まった。 また、Ringlet版では簡単に巨人の城に潜入しますが、このシーンもオリジナルではかなりの尺を裂いて描写しています。原版では以下のように変身して潜入し、また、帰還時は逆の手順で城を後にしています。 アリになって城壁を登る。 ↓ サルになって城内の木をつたい、巨人の部屋に忍び込む。 ↓ オウムになって巨人と会話する。 女王様が身投げをしたのちに人魚として生きながらえることになった点については、原版では「どこかの魔法使いが哀れんで」となっています。この女王様は典型的な人魚スタイルである上半身が人間、下半身が魚と描かれていますが、なんにでも変身できる能力を授けたり、(Ringlet版ではカットしましたが)巨人の現在と王冠の具体的な取り戻し方を教えたりと、自身も魔法使い的な側面を持っています。 終盤のロマンスは珍しい形を取っていて、王の悩みを解決するのは母親であり、当人目線というより女王様視点で語られています。 また、原版では明確に「(自分は狂ってしまったと思われるだろうが)鹿に恋をしてしまい、ほかのことが手につかない」と王は語っています。昔話では動物に恋をすることがよくありますが、これは男女を問わないようです。 地理的観点から言うと、カタロニア地方で魚に変えられたということは物語の海は地中海であり、たしかに色々沈んでいそうな気はします。 女王様も主人公も「何にでも変身できる能力」を手に入れた時点で人間に戻ればよかったと思うのですが、それでは話が終わってしまうのでダメなのでしょう。 |
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| 自由奔放で諦めることを知らず、後半部分を見ると機転も利いて、なおかつ王様相手にも遊び心を忘れない、割と大物ではないかと思えるヒロインです。物語の大半を動物で過ごしているので、服のデザインはありません。(TINA) | |