| 古将棋好きアルフラート | 採集地:中近東 |
| 「新編世界むかし話7 "ダマスクスの商人カシムの話"」より | |
|
リア充爆発しろシリーズ。 王道の冒険もので話も二転三転あり、物語としてよく出来ていると思います。 原版はもっと長い話なのですが、Ringlet版では本筋に影響ないと考えられるいくつかのシーンをカットしています。例えば、冒頭で主人公が商売で一文無しになってしまうシーンは、原版では友人が代わりに商売をしてあげようといい、主人公は彼にお金を貸しますが無一文になってしまいます。友人はどこ吹く風で「これが神様の思し召しだったんだ」と言い、主人公も友人を責めるでもなく、その後も再登場しません。(友人は主人公を破産させるためだけに登場します) 原版ではシリアのダマスカスからエジプトのカイロに引っ越したとあります。直線距離で500キロ近く離れているため、実際の旅路は大変だったでしょう。また、喫茶店でコーヒーを注文する記述があり、アラブ世界にコーヒーが広まった1500年以降に編纂されたストーリーであることも確認できます。(ストーリー自体はもっと古く、後の時代になってコーヒーが織り込まれた可能性も十分あります) 物語の中で特に興味深いのは、主人公たちが興じていた古将棋と妻を攫ったスーダン王(本編では「スッワード王」)のふたつでしょう。 まず、本編で古将棋と訳した、主人公たちが熱を上げていたゲームはイスラーム世界ではシャトランジと呼ばれるゲームです。もとはインドのチャトランガというゲームで、イスラームを仲介してヨーロッパに伝わりチェスになりました。伝播の中でルールは変わっていき、大元のチャトランガに至っては正確なプレイ方法が解っていませんが、道のりについてはほぼ正確に解明されています。 イスラーム世界では中世に大流行したとあり、段位戦などもあったようです。また、この種のゲームの常として賭博にも用いられました。 ふたつめのスーダン王については、さらにふたつのポイントに分けられます。ひとつめはスーダン王という存在、もうひとつはどのようにして妻を攫ったかという点です。 スーダンといえば現代では国としてのスーダン共和国および南スーダン共和国を指しますが、もとはアラビア語で「黒い人」という意味で、広く黒人が住む土地を指す言葉でした。中世において、スーダンという言葉はざっくりサハラ以南〜ギニア湾以北を指します。現代のマリ〜ギニア周辺で産出された俗に言うスーダン金はマリ帝国のマンサ・ムーサの例を出すまでもなく、重要な交易品でした。 一方、現代のスーダン共和国にあたる部分は、エジプトのすぐ南にあるにもかかわらずイスラーム化が遅れた地域だったようです。原版の「スーダン王」が歴史的な地域としての「スーダン」なのか、あるいは現代のスーダン共和国エリアにあった「スーダン」かは明言されていませんが、中世の物語として読むのであれば歴史的スーダンとして見る方がいいでしょう。 さて、このスーダン王(本編では「スッワード王」)が主人公の妻を攫ったくだりはRinglet版では省略しましたが、原版によれば「屋根にあがってナイル川の景色を眺めていたところ、通りかかった王の美女狩り船に見つかり連れ去られた」と書かれています。この描写から解るように、ナイル川のほとりには高級住宅や富裕層の別荘が立ち並び、涼や刺激を求めてよく船を出していました。ナイル川に何十艘もの船が浮かんでいる様を家のバルコニーや屋根から眺めるシーンを想像すると、物語の解像度が上がるかと思われます。 |
|
![]() |
|
|
男装の王女という設定はよくありますが結婚後にもう一芝居打つのは珍しく、根っからのいたずらっ子というイメージが強い人です。「主人公が妻を殺さなかったら自分が殺していた」というのは当時の倫理観ではごく一般的と考えられますが、見張りの兵士を皆殺しにしてしまうのは、やはり現代とは違います。それにしても、主人公には一目惚れだったようなのですが一体どこが気に入ったんだろう…。(TINA) 今回挿絵を手掛けさせていただきました、悠城です。 色々ありますが一番言いたいのは、背景のレンガ模様は手書きです。ええまぁ疲れましたはい。レンガァ…レンガァ…。 あと、衣装が結構好みなんで描いていて楽しかったですね。ただヒロインがヤンデレで草。というか主人公も気づかんだろうか。気づかないんだろうなぁ。(悠城さん) |
|