| 銀の髪のイオネラ | 採集地:ルーマニア |
| 「バルカンの民話 "イレアナ・シムジアナ"」より 「アンドルー・ラング世界童話集 第七巻 むらさきいろの童話集 "男になりすました王女"」より |
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現代的に言えば宝塚的ストーリーとでも言えばいいでしょうか。Ringlet版はアンドルー・ラング版を元に、バルカンの民話から補足した上で、全体の2割程度をカットして短くしてあります。地元ルーマニアでは大変有名な話らしく、切手のモチーフとして何度か取り上げられていたりもしているようです。(Ileana Simziana
Stampで検索すると見つかります) オリジナルは典型的なRule of Threeが5回も繰り返される長大なストーリーで、 1.三人の王女が旅立つ 2.末の王女を父が三度試す 3.竜人の母親が王女を三度試す 4.イレアナ(Ringlet板ではイオネラ)を連れて来る時に三つのアイテムを使う 5.イレアナが求婚の条件として三つの難題を課す と言うふうに物語が進んでいきます。 1についてはメインストーリーと関連性が薄いということでRinglet版では削除しました。原版では、長女の旅立ちと失敗は下記のように書かれています。 銀の鎧をまとった王女が馬に乗って矢のように通り過ぎるのを見て、人々は目をみはった。王女の姿はあっという間に見えなくなった。もし数マイル行ったところで馬を止めて、おともが追いつくのを待たなかったら、王女はそのあともひとりで旅をしなければならなかっただろう。 (略) 大きな灰色のオオカミは歯をむき出して、王女の前に姿を見せた。ぞっとするような低い唸り声をあげながら、今にも飛びかからんばかりに身構える。 (略) 「だから言ったではないか。ハエに蜂蜜は作れぬと」 また、次女が戻ってきた際に王様は「だから言ったではないか。ひとつの網ですべての鳥はつかまえられぬと」と言って諭します。 2は非常によくあるパターンのRule of Threeで、橋も変身する獣もだんだんと豪華なものになっています。元になっているふたつの訳本で少し話が違っていて、「バルカンの民話」ではいずれの時もお互いに怪我はしませんが、ラング版では「ドラゴンの頭のひとつを切り落とした」と描かれています。 3は第26話「最初の剣と最後の箒」と同じく性別を確かめるストーリーですが、最後まで素性がバレなかったという点が異なります。これだけでもひとつの話として成り立つわけですから、この話はFairytale全体を見渡しても大長編と言えます。 竜人(Zmeu)はルーマニア民話によく登場する種族です。人型の竜(Zmei)とも言うそうですが、超越的な力は失われていることが多く、空を飛んだり火を吐いたりすると言ったことは出来ず、せいぜい英雄クラスの怪力を持っている程度です。外見についていえばリザードマンを想像すると近いかもしれません。とは言うものの、彼らは魔法使い的な力も持っていて、この話に登場するように不思議な花を知っていたり、人間を魅了したりします。味方として登場することも、悪役として登場することもあり、善悪では判断がつきにくい存在でもあります。 4の「追跡者をアイテムを投げて足止めする」パターンは、Fairytaleの中でよく目にするタイプの話です。これを語ると長大になってしまうので、ここでは三つ目のアイテムを原版から変更したことだけを書いておきます。なお、原版では三つ目の指輪は塔を生み出すマジックアイテムでした。 象牙のようにつるつるしていて、鋼のようにかたく、天までとどきそうな高い塔だ。のぼることも通り抜けることも出来ないとわかると、魔女は怒ってわめき声をあげた。けれども、まだあきらめたわけではない。気合を入れて、おどろくほど高く飛び上がり、塔のてっぺんに乗ったのだ。魔女は塔の上にあったイレアナの指輪の輪の中に着地して、体ごとすっぽり指輪にはまりこんでしまった。輪の下は深い空洞だ。ふちにしがみつく魔女の鉤爪だけが見える。 魔女はあらゆる手をつくしたが、炎を吐いても、にげていくふたりには届かなかった。それでもその炎は、火山がふきあげる火のように、塔から百マイル四方の土地を焼きつくした。魔女は最後にもう一度、自由になろうともがいたものの、とうとう両手の力がつき、塔の下へと落ちていった。 5もいわずもがなですが、Ringlet版ではひとつ省略してふたつにしてあります。省略された部分はイレアナの馬の乳を搾るというものですが、やや付け足した感があるのでカットしました。最後の試練には具体的な地名が登場し、聖水が置かれている教会は「ヨルダン川の向こう」と書かれています。 性別を逆転させる話はFairytaleの中にいくつか見つけることが出来ますが、だいたいが偶然に発生します。ただ、はっきりとは書かれていませんが、末の王女は自分は男に生まれたかったと考えているような描写が見受けられます。その一方で、Ringlet版ではカットしましたが、皇帝の都に入ってからお菓子を焼いたり料理を作ったりと非常に女性的な一面を見せてもいます。 解説によると、イレアナは東欧に広く信じられている「大地の美女(※妖精の一種。ルーマニア語ではズーナという)」で、優しく美しく賢い理想の女性を示し、ヒーローが獲得するべきヒロインであると同時に彼女自身も相当な力を持っているとされます。イレアナはいくつか名前を持っていて、イレアナ・コシンザーナ、コスンツァーナ、あるいはシムゼアナなどと呼ばれているようです。 また、馬の名前が原版では「太陽の黄色」という訳になっていますが、日本人の大半が持っている太陽を赤、あるいは橙色とする認識は実は世界共通ではなく、かなりの地域では黄色となっていることに由来します。 なお、Ringlet版では最後のふたりのやりとりを少しだけ追加してあります。 |
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勇猛果敢な王女です。一度も剣を振るったことなどないはずなのに、いきなり凄まじい戦闘能力を発揮します。鎧は革と金属片を繋いだ軽装鎧です。一方、どんな下級兵士でも絶対に欠かせなかった兜はキャラクタの視認性の問題で省略しました。(まともな鎧を着けていない兵士は意外と多かった一方で、クリティカルな頭部を守る兜を身に着けていない、ということは実際の戦場ではありえません) 皇帝の宮殿についてからも男とバレることがなかったので、スタイルはそれほどよくなかった…、よく言えば中性的だったのでしょう。 イレアナ役は璃瀬にやってもらいました。服装はどことなくオリエンタリズムを取り入れたものになっています。彼女は人間ではなく妖精に属するもので、おそらく何百年も生きているような存在と思われます。長らく魔神に囚われていたことになっていますが、指輪や馬などのマジックアイテムを持っていて、魔神や皇帝を煙に巻いているあたり、単なるか弱い女性ではないと思います。(TINA) 今回は長編でしたが面白く何度も読み返したお話です。ドラゴンと戦い、魔人と戦い、悪い皇帝を倒す。王道なのですが主人公が男装の麗人。そんな王道とは少し離れた主人公ロレナですが成し遂げたことはまさにヒーロー。かっこいい…。この物語では馬も重要人物(動物)ですね。ロレナの道しるべとなったのが王の馬と太陽の黄色。二匹は聡明で勇敢です。第二の主人公ですね。この時代それほど馬は身近で重要な動物だったのでしょうね。 この物語は王道らしく悪い皇帝がいます。終始、ロレナに無理難題を言いつけます。まるで悪い上司のような皇帝。その皇帝を倒したのがイレアナ。イレアナもなかなか怖い人かもしれません。(市九紫) |
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