言葉を失った姫 採集地:トルコ
「アンドルー・ラング世界童話集 第十巻 くさいろの童話集 "物言わぬ王女"」より
 英語版原題は「The Silent Princess」で邦訳版は「物言わぬ王女」ですが、Ringlet版では「言葉を失った姫」としています。オリジナルはかなり長編かつ現代の倫理観にはそぐわない話で、最初の旅立ち部分と王様の領地を旅する描写は全てカットしました。メイン部分も、実際はFairytaleによくある三度の繰り返しを用いて王女をしゃべらせるというものですが、Ringlet版ではこの中の一つの話だけを抜粋してバックグラウンドを再編しました。オリジナルの残り二つの話は下記のようになっています。

1.遠くのことを見通せる能力、とても素早く移動できる能力、どんな病気でも治す薬を作れる能力の3人が協力して王女を治す話(だれが一番役に立ったのか? という定番の問いです)

2.棺桶の中に寝そべる役の男と、その男が起きあがって来たら石で殴りつける役の男、棺桶の中の男を掘り出して持ち帰る役の男の誰と結婚すべきか(こちらは解りにくいですね。原作を読んでください)

 となっていて、どの話も三択になっています。

 黙っている王女の類話では「ユダヤ民話」に「王女に口をきかせた若者の物語」という話があり、典型的な三人息子がチャレンジして末っ子が成功するストーリー展開ですが、最後に王女を殺してふたりの兄の復讐を成し遂げるという結末になっています。

 選び難い選択をモチーフとしたストーリーは少なくともヨーロッパ、アジア、アフリカ全土では広く見られるもので、どの国、どの民族の民話集をみてもひとつは載っています。内容は地域性と時代を反映したものが多く、結末も自由なため無数のバリエーションが存在します。そういう意味で、この話がトルコである必然性はなく、起源を求めることも不可能でしょう。オリジナルにはタバコの描写があることから近世以降に書き留められたものと解ります。

 この手のストーリーが広く流布していた証拠のひとつとして、まったく同じ話が「アラブの民話」の中に「四人の男と一つの奇跡」という話として収録されています。登場人物は像を彫った大工、服を作った仕立屋、装飾品を作った宝石細工師、命を吹き込んだ神学生と一人増えて四人になっていますが、彼らは全員木彫りの女性像を自分のものとして譲らず裁判官に調停を依頼するという内容になっています。なお、こちらの判決は神学生の勝利に終わりました。

 主人公のおともであるナイチンゲール(和名=サヨナキドリ)は主にヨーロッパに於いて、色々なFairytaleで活躍します。姿形が特出していいわけではありませんが、雄のナイチンゲールはとても美しい声でさえずる点が受けたのでしょう。

 先にも書いたとおり、この手の物語の源流を探るのは非常に難しいのですが、 現代まで残っている物の中ではインドで少なくとも1068年以前に編纂された「ヴェーターラ・パンチャヴィンシャティカー(屍鬼二十五話)」がこの手の選択的ストーリーだけで構成された珠玉の作品と言えます。

 このタイプの物語は公平に見れば誰が勝者でもおかしくないものがほとんどで、どのような結果になっても聞き手の議論を巻き起こすことは間違いありません。食堂や酒屋、身内の集まりなど、どんな場所でも話を盛り上げることが出来るため、人気があったのではないかと思われます。

作中で主人公たちが言ってますが、熱々の焼き芋を手渡してみるとか、ほっぺたに氷を当ててみるとかでも行けたような気がしないでもない話です。驚かせて正気を取り戻す事例は別の話にありますが、あまりスマートな解法とは見なされないのでしょう。(TINA)

言葉を話す鳥をはじめとしておとぎ話らしい雰囲気がいっぱいで好きな一話です。ナイチンゲールがかわいらしい姿でありつつ賢くかっこいいキャラクターいうのが良いです。(宣教師ゴンドルフ)