不死の国の女王 採集地:ハンガリー
「新編世界むかし話集5 東欧・古代編 "不死を求めた王子の話"」より
 冒頭および最後で物語がフィクションであることを強調している珍しい形式で、全体的なストーリーのちぐはぐさとあいまって、どこかでリライトされたと思われます。

 たとえば不死の国の門を守る怪物はいかにも意味ありげですがそれ以上の出番はなく、王子が道中であう三人の王はそれぞれ一定の仕事をこなすまで死ねないことを「呪い」として忌まわしく思っていますが、後半で王子が生き返らせたことに対しては素直に礼を述べたりもしています。

 ストーリーの特異な部分としては「繰り返しが三回ではなく四回」「行って戻ってきてまた戻る」多くの物語では不死など無い、あるいは一度は不死を手に入れるものの不注意で死んでしまうのに「不死を手に入れて幸せに過ごした」という形で終わっていることが挙げられます。

 なお、原版は繰り返しについてかなりページを割いていますが、直接的な関係が薄いためRinglet版では以下の部分を大幅にカットしてあります。

 ・原版では一つ目と二つ目の国にも王女がいて、結婚を勧めてくる。
 ・別れ際にそれぞれマジックアイテムをくれる。(最後以外は使用されない)
 ・不死の国の女王は「ふりかけると即死する水」もくれるが、一度も使われないまま終わる。

 もうひとりの登場人物は死神で、老人の男性として書かれています。
 素直に賭けに乗る部分など意外と物分りがいい一面も含め、あまり恐ろしくなさそうに思えますが、Fairytaleでの死神は意外にもこうしたイメージが一般的に思えます。
 いくつかの物語では死神が主人公のパートナーとして登場し、かなり親切にしてくれます。

 具体例ではアルバニアで採録された「死神の名付け親」が挙げられます。このストーリーでは死神は女性で、「死神が患者の頭側に立っていれば死ぬ、足の方に立っていれば回復する」という典型的な判断基準を主人公に教え、それで生活するように勧めます。この手の話では主人公はベッドを反対にすることで騙し患者(大抵の場合は王女)を救いますが、後々に死神を騙した報いを受けると言うものです。
 死神の立ち位置で回復の見込みがないと思われた者を「必ず治る」と言って看病したり、とても死にそうにない壮健な者が「突然死する」と不幸な予言を与えて医者として身を立てる類話もあります。

 最後の「王子を蹴り上げて運命を試す」シーンはこの物語特有で、他に同じような話を見たことがありません。不死の国の女王は不正しようと思えばいくらでもできたはずですが、死神がそのあたりを突っ込まないあたり、ふたりがどちらも生命を司る神としてのプライドがあるのかもしれません。

 全体を通してみるとやや単調で変に長く、ご都合主義に満ちたストーリーと言えますが、欧州編で収録していなかった死神や不死というキーワードを満たす数少ない話でもあります。

 本編で準キーキャラクターとなる青の国の王女(女王)は久紀にやってもらいました。

 フィクション色の強い物語なので、キャラクターデザインも年代にとらわれず自由にデザインしてもらいました。
 特に不死の国の女王は空の上に浮いている城の主ということで、かなり近代的なデザインになっています。なお、彼女は作中で一度も名前を呼ばれていませんが、ユディトという名がついていました。
 もうひとりのヒロイン、青の国の王女プレドスラヴァは大人っぽいイメージだったので久紀をあてました。ロシア系の名前をあてたので、服装もロシア要素をいくらか取り入れています。
 このストーリー中、最大の矛盾はどの王様(女王様)も「あることをするまで死ねない呪い」に縛られていて、死を望む行動を起こしているのに、1000年経った後に生き返らせた際に文句を言わないところでしょう。全体的にご都合主義で、開発サイドでは評価の分かれていたストーリーです。(TINA)

 今回のお話は主人公ゲーザが不死を求めて旅をするお話です。
 その旅の途中で出会う様々な国の王様、王女様達はみんな長命の呪いを受けていますが主人公はそれでは満足しません。不死を求めて旅をします。なんて、貪欲な主人公なのでしょうか! 普通は1000年で充分です。どうしてそこまで求め続けるのか。彼は普通の人とはかなりかけ離れた価値観を持っているようです。
 そんな彼でも終盤には故郷が気になり帰ります。この構成どこかで見覚えがあるような…。浦島太郎にちょっと似ていると思ったのは自分だけでしょうか。ただ、浦島太郎が違うのは終わり方です。浦島太郎はお爺さんになりましたがゲーザは助けた皆に今度は助けてもらい、また不死の国に戻ります。このお話が出来た時代がどれだけ不死に憧れを抱いていたかがよく分かるお話です。
 しかし、各国の王様、王女様に言い寄られるどころか不死の国の王女様にまで気に入られるとはなんてモテスキルの高い主人公…! うらしやましいです!(市九紫)